Webで情報を見付け、「イヴの時間」や「ペイル・コクーン」が好きで、吉浦康裕監督の制作スタイルにもとても興味があったので、申し込みました。
受講者の年齢は20〜40代くらいかな。若い人が多かったですが。
会場はほぼ満員でした。
監督の作品の原点となっているもの、自主制作の時代から今まで制作してきた作品(「我ハ機ナリ」「キクマナ」「水のコトバ」「ペイル・コクーン」「イヴの時間」「ヱヴァ破」のデザインワークス)の解説、今後について等を話してもらえました。
以下、遅くなりましたが、簡単なレポートです。(8/23:一部追記)
【注意】
- 自分が取れたメモをもとにし+記憶で少し補足しているので、要点をまとめた感じの箇所が多いです。
- そのため監督や発言した人の本意と少し外れてしまった点もあるかもしれません。悪しからず。
- 話の内容の全てをフォローしていない&できていません。
※記憶違い・間違い等があれば、コメントでもください。
●はじめに
監督:1回限りなので、楽しい講演会にしようと思います。
司会:これまでの軌跡、作品の本質を話してもらおうと思います。
●作品づくりに至るまで
・通っていた幼稚園は、面白い場だった。
教室をつくらない、壁をつくらない、吹き抜け、天井に大きなファンがある。「イヴの時間」「水のコトバ」の舞台の元になっている。
・小学生の頃は建築設計士になりたかった。
・小学生からSF小説を読んでいた。
・中・高校は、演劇好きになり、演劇部に所属。
・高校の時、ゲームの「ミスト」の影響を受け、CGにも興味をもつ。
・大学受験時、役者か舞台作家になりたいと思っていたが、無理そうだなと。
・漠然とCGの仕事をしたいなとCGが学べる大学へ進学。
・大学2年で、そろそろつくってみようと作品制作をはじめる。
●「我ハ機ナリ」(2000年 自主制作)に関して
(「我ハ機ナリ」をスクリーンで上映しながら)
・とりあえず2週間で完成させようと決めていた。
・3DCG背景で2D手描きのアニメーション。
・完成後、学内で褒められ、やってみようとなった。
●「キクマナ」(2001年 自主制作)に関して
(「キクマナ」をスクリーンで一部上映しながら)
・テンポのいいアートアニメを目指す。
・アートアニメ的でもテンポ良ければ、最後まで観てくれるのでは?
・コンテンポラリーアニメは好き。
・押井守監督作品も好き。「天使のたまご」好き。
・5分くらいの作品。制作時間半年。
・音楽とSEは、同大学の音楽部の人に頼んだ。
●「水のコトバ」(2002年 自主制作)に関して
(「水のコトバ」をスクリーンで一部上映しながら)
・大学3年で就職とかチラついて、(自分の作品が)アートアニメのイメージだけだとよくないと思った。
・今までと正反対のものをつくろうとし、セリフ多い、ストーリーがあるものにした。
・Strata(3DCGソフト)で制作。今までの作品でも同様。
●「ペイル・コクーン」(2005年)に関して
(「ペイル・コクーン」をスクリーンで一部上映しながら)
・作品を応募していたデジスタの人(ディレクションズのプロデューサー)に、こういうのがつくれるのなら、DVD(作品)もつくれるのではと依頼を受けた。
・こういう事はなかなかないと思ったので、(就職するのを止め)受ける事にした。
・この頃、「ほしのこえ」(新海誠監督)が出て、そういう事をやってみたいと思っていた。
・実家で1年制作+半年で調整。
・ゲームのムービーの仕事もしていた。
・以前の作品は作画が良くなかったので、演劇をしている人にライブで演じてもらい、それを使用して作画した。
・2D作画でもたないところは、3Dのカメラワークでもたした。
・自分の古典SF好きの趣味が出ている作品。
・1本筋のある話をつくることを目指す。
●「イヴの時間」(2008-2009年)に関して
(「イヴの時間」をスクリーンで一部上映しながら)
・「ペイル・コクーン」の制作終わり時にもう個人制作は止めて、次はグループワークにしようと思っていた(今回は、監督・企画・脚本・絵コンテ・演出・3DCG背景・各種デザイン・撮影・編集・音響監督の仕事を担当された感じかな? すごい)。
・「ペイル・コクーン」は、ストーリーがわかりにくい、キャラに魅力が無いと言われていた。
それを克服する作品にしようと思った。
・三谷幸喜(脚本)の「王様のレストラン」が好きだった。それをやろうと思った。
・制作(の仕事)は、いい事90%、悪い事10%。
・制作はじめの頃、アニメ業界につてがなかったが、6話(最終話)制作時にはアニメーターの人から声を掛けてくれたり、声を掛けた人が見てくれていたりした。
・1話は半年掛かったが、最終話では、尺はほぼ倍なのに半分の時間で出来た。
・キャステイング(声優)は、第一希望が全て通った。
バラバラで録る事が多い。リクオとマサキは一緒に録る事が多かったが。
・キャラクターデザインは、友人の動画の人に頼んだ(監督のラフ案やはじめのデザイン等をスクリーンで見せてもらう)。
・背景はMAX(3DCGソフト)で制作。
背景は汚しよりも光の陰影で表現した方が良い(スクリーンで「イヴの時間」での3DCGサンプルを見せてもらう)。
・途中から美術監督を入れた。
・小道具もCG(自分で制作)。
・絵コンテの段階で構図は決まっている(絵コンテをスクリーンで見せてもらいながら解説)。絵コンテの背景は3DCGで既に出来ている。
・途中から背景のモデリングも外注。基本のモデリングは自分でする(スクリーンで監督の基本モデリングを見せてもらう)。
・最終話のテックスがマサキに話すシーンは、テックスの目が泣いているようにと指示。目の部分は手描きCG(スクリーンでその画像を見せてもらう)。
・合成作業は全て一人で担当。
・シナリオづくりで参考にしたものは、芝居、戯曲、三谷幸喜の作品。
・TVドラマの書き方の本を読んだ。自分は理屈でつくる方。
・はじめは実験的な作品をつくっていたが、キューブリックを観るかスピルバーグを観るかとなると自分はスピルバーグを観たくなると気付いた。
・自分のやりたいことは意識しなくても(作品に)入ってくるので、あまり考えないようにしている。
●「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破」(2009年)のデザインワークスに関して
(制作したイメージボードをスクリーンで見ながら)
・序のヤシマ作戦の作戦車両内をやってもらいたいと鶴巻和哉監督に言われたが、時間がなく出来なかった。
・破の時、水族館のプラントの依頼がきた。
・水族館だけど、まがまがしい工場みたいにとの注文。
おどろおどろしいシーンになると言われていた。
・はじめに提出したイメージボードに対して、バルブや看板の位置等で人物が居なくても大きさがわかるようにと修正依頼(鶴巻監督から)。
・提出3回目でOK。
完成した本編よりもまがまがしい工場みたいなイメージだったが、本編は少し違った感じになっていた。
・「ヱヴァ新劇場版」は、ボトムアップでつくられている。目標、完成形がない(設定されていない)。
・すごい人ばかりで刺激を受けた。
●今後に関して
・躍動感がない、アクションがない、野外がないのでそれを克服する作品をつくる。
・次は動きのある作画もやりたい。
・今、制作準備中。製品形態はわからず。
・最近は「夜桜四重奏」のCGの仕事をやった(原作単行本に付属するOADの方。←りょーちもさんの初監督作)。
・「イヴの時間」の2ndはやる。
●受講者とのQ&A
Q:制作時に辛い時はありますか?
A:個人でやっている時が辛かった。
途中が一番辛い。はじめと終わりはよい。
辛い時の乗り越え方:
・自分は賞賛されるんだと思う。
・発表する場を強制的につくる。周りの人に言う。
Q:実写+アニメの作品はやらないのですか?
A:PVとかでやりたい。
実は実写だけの作品やりたい。「イヴの時間」も実写でやってみたい。
Q:実写とCG合成のよい方法は?
A:コンテの構図、映える構図を考えた方がよい。
庵野秀明監督の「帰ってきたウルトラマン」(DAICON FILM)もウルトラマンの顔が庵野さんの顔だが(笑)、構図がよく格好よい。
Q:長期的な目標をもっていますか?
A:金曜ロードショーで自分のアニメを放映されたい。
立ち位置的には細田守さん。
よりアニメらしいものをつくりたい。
Q:フルCGをやらなかった理由は?
A:自分の技術では無理そうだった。
キャラ依存の作品なので、3DCGは考えられなかった。
フルセル(フル2Dかな?)には向かうかも。
Q:オリジナリティを出すために観た方がよい作品は?
A:絵柄から遠い世界・作品からもってきた・引っ張ってきた方が新鮮で効率的。
自分が惹かれている作品の世界をもってくる。
講座を受けて
吉浦康裕監督の話は、流暢でテキパキし、論理的でわかりやすかったです。
司会の方もいましたが、監督が流暢に次々と話すので一人でも大丈夫な感じでした。
出来るビジネスマンのプレゼンのような、ビジネス系セミナーの講師の話のようにも感じられる程。
でも次々と話されるので、メモ取りが追いつかなかった事が多く。残念ながら、他にも興味深い話があったと思います。
話を聴いた印象等からだと、優秀で頭の回転が速く&飲み込みの早い人に思えました(自分とは反対..)。
前作での欠点をリストアップし、次作でそれをきちんと克服している分析能力、客観視できる能力、コントロール能力、才能には感心させられます。
そういう点も出来るビジネスマンのイメージに繋がりますw
アート系のアニメーション等の作品も好きという感性もあるのに(そういう作品も自主制作していた人なのに)、こんなに一般向けの作品を目指す人も珍しいかもしれません(今後、一般向けで成功を感じたらアート系に向かうかもしれませんが)。性格もバランスよさそうだし。
実際、やっている作業は、かなり職人的なところもあるはずなのに、話の印象だと、こだわりが強過ぎる感じがありませんでした。
自分の勝手な印象ですが、アーティストや職人というより、デザイナーやアートディレクターのような雰囲気がしました。
そういう客観視できる、変なこだわりがない、器用なところ、合理的なところ、バランスのよいところは、監督の長期目標である細田守監督に似ている印象があります。
細田監督の位置に近づくのもそのうちかもしれません(自分の予想はあまり当てにできませんがw)。
吉浦康裕監督の作品は、「水のコトバ」ではじめて知りました。
その後、個人でのフルデジタルアニメーション制作ということもあり気になっていました。
「ペイル・コクーン」では、格段にクオリティが上がり(特に3DCGの背景やディスプレイのGUI等)、人物のデザイン・作画も向上し、話もよい感じで、今後が楽しみになっていました。
そして「イヴの時間」で、一気にエンターテイメント性と話のわかりやすさも増し、しかも感動も出来るものになっていて、一般的な方向の作品も出来る人なんだと感心しました。
吉浦監督は、ほぼ個人でのフルデジタル自主制作アニメで評価され、その後、本格的な商業アニメ作品をつくり成功した人として、新海誠さん、FROGMANさん(Flash制作のゆるいアニメ作品なので本流ではないかもですが)の次に来る人に、そのうちなりそうな気が個人的にします。
プロデュース的な視点のことも出来そう、企画もうまく考えられそうで、何より魅力的な話がちゃんと書ける人ですし。
ちなみに「イヴの時間 劇場版」は上映館数が少ない事もあり興収2000万円でしたが、BD+DVD売上は1万枚超えたらしいです。
どのくらい利益が出たかは、詳しくないのでわからないですが、TVアニメではなかったため(Web無料配信15分〜28分弱×6話→Web配信版の各話DVD,CD販売→劇場版公開→劇場版のBD,DVD,CD販売という発表・販売形態)、高額な放送枠の料金も発生しなく、宣伝広告費も抑えられていたと思われ、制作スタッフも多くなかったようだし、そこそこ黒字が出ているのでは?と憶測します。
TVアニメのDVDは(DVDだけの販売の場合)、1巻(2~3話)3000〜4000枚売れれば赤字にならないという話らしいです。
約1年間掛かったWeb配信で制作期間は長くなっていたのですが(準備期間含め約2年間らしい)、2ndもやると監督が宣言しているので、たぶん黒字になっているはずと思われますが。
今回の話では、監督の子どもの頃や10代の頃に好きだったもの(幼稚園の個性的な場、建築設計士になりたかった、SF小説、演劇)が、作品の原点になっていることもわかり、面白かったです。
現時点では、少数の主要スタッフでのグループワークを続けていかれそうな感じですが、今後も吉浦監督らしい制作スタイルを進化させていっても欲しいです。
ますます伸びていきそうな人ですが、器用さに流されず、新しさを感じられる感動する作品をつくっていってもらいたいです。今後も期待しています。
※吉浦康裕監督インタビュー記事紹介
- 『イヴの時間 劇場版』吉浦康裕監督ロングインタビュー(前) – ニュース – アニメイトTV
- 『イヴの時間 劇場版』吉浦康裕監督ロングインタビュー(後) – ニュース – アニメイトTV
- 3月6日公開の映画「イヴの時間 劇場版」の吉浦康裕監督に作品や今後についてインタビューしてきた – GIGAZINE
- 【インタビュー】世界無料配信アニメ『イヴの時間』で話題の新鋭クリエイター・吉浦康裕 (1) 個人でクオリティの高いアニメ作品を制作してきた吉浦監督 | クリエイティブ | マイコミジャーナル
- 【インタビュー】吉浦康裕監督「劇場で新たな体験を!」 – 『イヴの時間 劇場版』、3月6日公開 (1) 劇場公開直前! まずは現在の心境について | ホビー | マイコミジャーナル
- 個人制作から劇場映画へ──アニメ作家・吉浦康裕が「忘れないもの」とは? – 日刊サイゾー
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