細田守監督のアニメーション監督術(2013.3.26):レポート

2013年3月31日(by キョウ) コメント0

2年と3か月振りのアニメーション監督術講義開催のお知らせが、アート・アニメーションのちいさな学校からあったので行ってきました。
日時は3月26日(火)、「細田守監督のアニメーション監督術」でした。
細田守監督の監督術講義は2009年11月にもあり、今回2回目になります(2009年のレポートはこちらの記事で)。
2010年12月の片渕須直監督の回以来、アニメーション監督術は行なわれておらず、もう講義開催は無さそうと思ってました。

当日は、アニメーション研究家の原口正宏さんが進行・聞き手役でした。
会場は満員でした(40〜45人位か)。
以下、レポートです。『おおかみこどもの雨と雪』のネタバレありますので。

【注意】
  • 自分が取れたメモをもとに+記憶で補足してまとめています。実際の発言や本意と少し違ってしまっている箇所もあるかもしれません。悪しからず。
  • 話の内容を部分的にしかフォローできていません。
  • ( )内は主に自分による補足説明です。

 ※記憶違い・間違い等があれば、コメントや連絡でもください。


●はじめに

・進行・聞き手役の原口正宏さんから「今日来ている人は将来アニメ制作の道に進みたいと思っている学生などが多いと思われるので、作り手の立場・先輩として話を伺いたい」との挨拶でスタート。
・今回は受講者全員が事前に監督への質問等を提出し、原口さんがそれらを取りまとめ、進行してもらう形でした。
・原口さんの話は、豊富な知識と作品等の鋭い観察・分析等で変わらず素晴らしかったのですが、その部分もメモしていると監督の話をほとんどメモできなくなるので今まで同様割愛しています。悪しからず。


●『おおかみこどもの雨と雪』に関して

狼の姿の彼(おおかみおとこ)の死骸をゴミ収集車で持っていかれるシーンについて(客観的な切り取り)
(※会場スクリーンでそのシーンを上映)
・最後に主人公・花の後ろからそっと傘を差し掛けるおじさん(本編に関係ない)は、主観でないことのシーンとして入れた。そういうシーンは(花の)主観的に演出しがちだが。
 シナリオにはなかったと思う。
・主観的な演出のよいところは、表情のアップや心の声などを入れて、主人公の心がわかりやすくなる。
・でも主観的な演出は、”自分の気持ちをわかって”となりがち。
・客観的な状況(のシーン)でどう観客が受け取るか。
・今までの作品でも客観的な切り取り(のシーン)はある程度あったが、『おおかみこどもの雨と雪』はより強い。
・ゴミ収集車で持っていかれることについて、知らない人は実物のおおかみを見た事ないので野犬だと思うのでは?と思った。
 調べてみると現実的に行政は野犬等の死骸をゴミ収集車で持っていくことが多かった。最近はかわいそうとの住民の声もあり、ゴミ収集車以外の車で回収されている地域も増えているようだ。
・ゴミ収集車で持っていかれる描写は、花と彼2人の社会との距離を描くためにもそうした部分がある。

アニメっぽくないあっさりした変身について
・(あっさりしている、アニメっぽくしてない変身の切り替え方について)盛り上がる演出やってもいいが、彼(おおかみおとこ)を人と違うものと特別に描写してしまう。
・コンテでいかにもな演出をしてみたが、違うなと。
・変身することは、本当の気持ちを見せる・伝えることと同じことではないかと思ったのでモンスターっぽく見せるのは違うのではと思った。言葉ではなく見せるということで本当の気持ちを伝える。
・自分の場合、昔からパッといつの間にか変わることが多い。
 作品が現実と地続きでありたいという思いがあるからだと思う。


●東映長編(東映動画の劇場用長編アニメーション)の影響に関して

・東映(東映動画:現 東映アニメーション)に入ってからジャンル映画のやり方を学んだ。学生時代は美大だったこともあり、ジャンル映画的なものは特に学ばなかった。(演出等の)技術とかは東映で14年学んだのが財産になっている。
・(自作品での)ロングショットで作画芝居で見せる、影なし作画は、東映長編(1958年の『白蛇伝』からはじまる東映動画の劇場用長編アニメーション。1970年代に終焉。漫画原作やTVアニメの劇場版とは別)の影響があると思う。
・自分は思いっきり東映。東映入っていたら染まっていた。東映長編の流れの人たちに影響受けていた。その人たちといつかは東映長編みたいのをまたつくりたいと話していた。
・アニメーターとして入ったから東映長編の影響を受けているのだと思う。演出家として入っていたら、映画に惹かれなかったかも。TVの方をガシガシやっていたかも。
・幾原(幾原邦彦)さんは東映にいながら、虫プロチック、表現主義的(芝居させずに演出で見せる、芝居させずにどう表現するか。出崎統監督、りんたろう監督、杉井ギサブロー監督等の演出が代表的)だった。
 それは映画が斜陽になってきた時期に東映の撮影所(実写)の演出家がTVアニメの演出をするようになって、作画の芝居以外で見せる表現が進んだ影響があると思う。幾原さんは演出家(演出助手)として入ったので、そういう演出家の人たちの影響が大きかったからでは?と思う。

・東映辞めた後にマッドハウスにいったとき、丸山(丸山正雄)プロデューサー(当時)に『時をかける少女』制作はじめに”スタッフはいないからね”と言われた。スタッフがマッドハウスの人であるわけでなく、マッドハウスの主力スタッフは使えず、外様大名のような立場だった。
・マッドハウスに来て、東映から外に出て相対化でき、東映の演出についてよくわかった。
・貞元(貞本義行)さんのキャラクターデザインは、テレコムで大塚康生さんに教えてもらっているので(大塚さんは東映動画アニメーター第1期生)、東映調(東映長編)の流れの上にいると思う。
・スクリーンで観て、見やすい画面にすると引きの画面になる。
 引きの絵の中で主人公の主観以外にも見えてくるものがある。それが面白い。


●CG等の新技術に関して

・映画では、毎回、技術的なチャレンジをやらないと詰まらないと思っている。
 『サマーウォーズ』での課題は、OZの仮想世界をほぼCGでやる。
・セルの背景動画はそれはそれで気持ちいい。
 表現の力が勝っていたら・入っていたら、別にいい(3DCGで無くていい)。それが入ってないとCGでもダメ。
 技術よりも表現の力が勝っていないと詰まらなく見える。
・『おおかみこどもの雨と雪』の背景CGについて、美術監督の大野(大野広司)さんが描いた(1枚絵の印象の)ように動かすのがポイントと伝えた。元が1枚絵の価値がある。
 レイヤーで分けて揺らすだけではない。それだけでは詰まらない。
・『おおかみこどもの雨と雪』ではCGの人にもキャラクターでの経験を積んでほしいと、冒頭等の人物のモブシーンをやってもらった。
 こういった新しい試みは我々の武器にもなる。
・『おおかみこどもの雨と雪』で花が畑の土を掘り返すシーンは、質感含めかなりこだわったが、公開半年経っても誰からも特に言われなかった(笑)。


●受講者とのQ&A

事前に提出した質問から
Q:どの段階で一番試行錯誤するのか?
A:
・はじめにあらゆることを考えておくのをがんばってやる。
・映画全てを把握し、そこからやるのが理想。
・スタッフの苦労を無駄にしたくない。
・シミュレーションして読み切ったつもりでもそうでないものになる。どれだけ読み切ったと思っても違うものになったりする。それが面白い面でもある。
・コンテを描きながら読む。
・作り手の正解は一つ。必ずある。そうしないと美しさに・表現の高まりに辿りつかない。
・大差ないとしても読み切って進めたい。

・企画の段階から頭の中に浮かんだ絵がある。こうしたら面白いとかもある。
・絵コンテの前にその絵を(イメージボード等で)描くと興味が無くなってしまうと思ってしまう。字で書いておく。絵コンテのときにしっかりはまってくれたらいい。
・『おおかみこどもの雨と雪』の雪山のシーンは、はじめから浮かんだ。象徴的なシーンから思い付く。
 雪山のシーンは思い付いたものと比較すると、出来上がったものはボリュームアップした感じだが、ほぼ同じイメージ。
・このカット、この一瞬を描くために・見せるために、どんなしんどいこともやっているところがある。

会場内で是非聞きたい人からの質問
Q:製作委員会に日本テレビが入ってきて作品づくりに影響はあったか? 商業主義的な要請等。
A:
※会場に日本テレビの高橋望プロデューサー(『おおかみこどもの雨と雪』ではCo.エグゼクティブプロデューサー)が来ていて高橋さんにも答えてもらう。
高橋:
・こうやってくれと言ったこと無い。監督の力を発揮してくれと。
 『サマーウォーズ』から(スタンスは)同じ。
・基本は作家がいて作品があるという考え。
・つくる側の才能に沿ってつくった方がよいものが出来る
細田:
・日本テレビの映画事業部は作品寄りではないかと思う。
・『桐島、部活やめるってよ』の吉田大八監督も今までで一番やりやすかったと言っていた。

Q:スタジオ地図の今後の形態について
A:
・わからない。
 アニメ界でもっとも小さくて財産基盤もない。今は制作動いてない。スタッフは事務職の人のみ。
・『おおかみこどもの雨と雪』はスタジオ地図の場所を借りてスタッフ集めてやった。
 マッドハウスから動画机借りたりした。終わった後、返却。
・本当はスタッフ雇いたい。一緒に居たいがそこまで雇えない。
・うまくいったら、腰を据えられる場や若い人と教えたり教えられたりの場にしたいという思いはある。

Q:プロット等で削るか残すかのジャッジについて
A:
・削る感覚無い。
 削るならはじめからやり直した方がいい。
 削るとバランス崩れる。大変だけどはじめからやった方がよい。
・ミニコンテを先につくって試したりもする。

Q:結婚してよかった点
A:
・した方がよい。
 『サマーウォーズ』と『おおかみこどもの雨と雪』は結婚したから出来た。結婚して他人との経験で。
 映画をつくる上でもよい。それでなくてもよいが(笑)。
 自分が小さくなるなどと思うかもしれないが、その経験で広がっていく。
 自分と違う人がいい。そういう人と生活で近いというのがよい。
・結局、他人なので誰でもよいのでは? どんなに大好きな人でも他人なので。それが面白い。
・邪魔だな、集中できないと思っても、一人では思わないようなインスピレーションある。そっちの方が大きい。邪魔だなとか集中できないという面も受け入れるべき。
・結婚して女性の描写のリアリティ増した。
 前はそれ程、女性の描写に思い入れなかった。男の方が面白い。
・自分は、理想的に可愛いは無い(理想的な可愛いは可愛いと思えないの意味か)。リアルだから生々しいからの可愛いはある。
 アニメは理想的な女性多いが、自分はそれは供給は出来ない。
・生々しい可愛いがあるから、誰でもよいから結婚しろ(笑)。
・結婚してリアルな可愛さ、生々しい可愛さが(観客に)伝わるようになったかな?

・バカっぽい状態が可愛い。バカっぽい人が好き、魅力を感じる。
・東映もバカっぽい会社だった。はじめは品の無いのが嫌だったが、バカっぽいのが好きになった。そういうのが喜びになった。
・考える前に行動する人の方がよい。頭よくいろいろ考えて行動しない人よりよい。
 行動が打開する。
 自分の映画である登場人物の行動に合理性が無いと怒る人もいる。でも合理的な人の行動の話は面白くない。
・バカっぽいを肯定的に描きたい。
 そういう登場人物を批判する人もいるが、応援してもらいたい、少し容赦してもらいたい(笑)。

Q:次回作について
A:
・今、がんばっている。
・小出しにするよりまとめて言った方がいいから、今は言えない。

Q:声優を選ぶポイント
A:
・登場人物に近い人がいい。
・オーディションをたくさんやる。
 オーディションの合間の雑談でその人の素の声、どういう人か、気持ちがわかる。演技だとそういう部分が隠れるので、その人のキャラを掴む。
 そして、そのキャラと合ったらお願いする。
・良かった人は、後から別キャラでお願いすることよくある。
 オーディションは大事。

Q:『おおかみこどもの雨と雪』で旦那さん(おおかみおとこ)が死んで育児放棄のような状態になり、そういう状態を描くのは心苦しくなかったか?
A:
・子どもが成人するまでに死ぬリスクある。そのリスクも含めて欲しいかどうか? 死ぬことは全然起こりうること。
・自分たち夫婦で個人的に話していたこと、辛さ・喜びなどからも話来ている。
・観客に楽しんでもらうという点から作品をつくりあげる方法もあるが、自分の中にあるものを出して作品をつくるという方法もある。


Q:監督の作品には女性が顔をくしゃくしゃにして号泣するシーンが多いが、監督の中で何かあるのか?
A:
・涙は女の武器というのは惹かれない。
・顔をくしゃくしゃにする描写は、女の子である前に人間である(という表現?)。
・人間である前に女・男であるというのには惹かれない。
 その前にその人間性、素の部分で感動したい。
・そういった描写は、自分の彼女、母親、男友達、自分自身から来ていると思う。
・女の子っぽく泣くのは、本心でないように感じる。しおらしく泣くが全て違うわけではないが。
・必ずしも涙が出なくても、泣かなくても、その状況(描写)により表せる。

・ジャンル映画的にウェルメイド(”破綻無くそつない出来映え”の意味か)的に主人公の気持ちを100%描くようにしたり、全部表現しても、そのことによって表現が零れ落ちる部分がある。
・本人の声や笑い等を表現しなくても表現できる。
・そういうことをなるべくやらないよう、さらにした、さらに努力したのが『おおかみこどもの雨と雪』。
・シナリオのカタルシスで観た人が100%泣く作品でなく、観た人の人生に寄り添うような作品があるのでは?


講義での話は以上です。
その後、監督との懇親会もあったのですが、会場のスペース上、全員の参加は難しく、学生の方やアニメーション制作~志している方等を優先したいとのことで自分は参加を遠慮しました。


今回講義を受けて

久々の監督術講義は面白かったです。
自分も監督への質問を20くらい提出したのですが、抽象的な質問以外は原口さんに結構聞いてもらえた感じでした。
監督の作品の演出意図やこだわり、演出等の土台となったものや影響を受けたもの等の疑問がある程度解けました。

でもまだ疑問や聞きたいことはあります。
例えば、監督の映像や演出のスタイリッシュな部分の土台はどこから来ているか?とか、主観的な演出よりもキャラと少し距離を取る演出にすることが多い理由とか、『おおかみこどもの雨と雪』を今までの作品よりも客観的な視点で描いた理由とか。
どこかのインタビューで答えられているかもしれませんが、自分は詳しくないのでわかりません。

講義の中で東映長編(東映動画の劇場用長編アニメーション)の影響を何度も口にされていたのが印象的でした。
細田監督の演出の特徴と言うと、今までは同ポ(同じ画面のポジション)、繰り返し、高レベルのレイアウト等の主にTVアニメの制作制限下(作画枚数、時間、人)からくる効率的・効果的な演出方法の指摘が多かった印象がありました。
でも演出家になる前のアニメーター時代の東映長編の流れの影響も大きかったようで、個人的に認識を新たにしました。
劇場版作品をある程度自由に手掛けられるようになって、それまでは制作上の制限から形としてあまり出せなかったもの(丁寧な作画の芝居等)が出せるようになってきたのでしょうか。

個人的に器用な印象が強かった細田監督ですが、今回の話を聞いて、その根っこには結構ピュアな部分がある人なのかな?と思いました。
また、”このカット、この一瞬を描くために・見せるために、どんなしんどいこともやっているところがある”等、つくり手の経験からの言葉も印象的でした。

監督の次回作はどんなものになるか自分には予想が立ちませんが、定型的なアニメとは違う面が多かった『おおかみこどもの雨と雪』には感動しましたし、期待しています。
今までの劇場作品と同じように、リアリティを感じさせる部分がちゃんとありつつも、ちょっと不思議だったりちょっとSF的だったりする作品が来るとうれしいです。
またリアリティを感じさせる人間・感情描写・人間関係・日常を(部分的にでも)魅力的に描けるアニメ監督は数少ないと個人的に思うので、その部分はこれからも是非守っていって欲しいです。
(数少ない理由は、監督の資質以外に、時間・人手・手間をそこまで掛けられる作品が少ないから、それが出来るアニメーターが少ないから、そういったものが得意な脚本家が少ないからという理由もあるのかもしれません。でも実情を知らない自分には何が要因なのかはよくわかりません。)

今回のアニメーション監督術は特別開催だったようで、今後の開催については未定のようです。

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この記事に対して問題等ありましたら、こちらのページまで。



レポートと関係ない余談

前回の記事でも書きましたが、TVアニメに対する興味が低くなり、今期分も録画が溜まってます(絵や映像は感心させられること多いのですが)。現在、そこそこ消化しているのは『たまこまーけっと』と『ヤマノススメ』くらいです。
4月からの新番組は数多いし、しばらくは気になる作品だけ録画&チェックする感じになりそうです。

相変わらず、自分は将来や生きていく希望・目標ももてず引きこもり気味です。
講義の中で監督が”考える前に行動する人の方がよい。頭よくいろいろ考えて行動しない人よりよい。行動が打開する。”と話されていたのが心に少し残ってます(考えた後に行動する方がよい場合多いと思いますが(笑))。確かにそうなんだろうと思います。が。。自分が何をやりたいかもハッキリわからず。

更新空いてしまってますが、その間、記事の”拍手”ボタンを押してくれた方、ありがとうございます。
講義やセミナー等のレポートは更新期間空くかもしれませんが、機会があれば、また書くのではと思います。

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