「あいうら 蟹ナイト ~作画を語ろう!」第75回アニメスタイルイベント(2013.9.4):レポート

2013年09月9日(by キョウ) コメント0
9月4日(水)に「第75回アニメスタイルイベント あいうら 蟹ナイト ~作画を語ろう!」に参加しました。会場は阿佐ヶ谷ロフトA。
出演は、中村亮介監督、細居美恵子さん(キャラクターデザイン、総作画監督、原画)、小木曽伸吾さん(メインアニメーター)、菊池愛さん(メインアニメーター)の4人。
司会は、アニメスタイル編集長の小黒祐一郎さん。

実は『あいうら』は、今年の視聴済みTVアニメの中では現時点で1、2番目くらいに好きな作品です。
作品の秘密について(中村監督の演出についても)、いろいろ知れた&楽しいイベントでした。
作画に関する専門的な話も多く出ましたが、自分はそんなに詳しくないので、残念ながら、そういう話のメモはイマイチうまく出来なかった感じです。
会場は20~30代と思われる男性が多く、女性は3人くらいな感じでした。
以下、自分が興味を感じた点の部分的なレポートです。

【注意】
  • 自分が取れた部分的なメモをもとに+記憶で補足してまとめています。
  • そのようなまとめなので、残念ながら、実際の発言内容や発言者の本意と少し違ってしまっている箇所もあるかもしれません。すみません。
  • 話の内容を部分的にしかフォローできていません。
  • ( )内は主に自分による補足説明です。

 ※記憶違い・間違い等があれば、コメントや連絡でもください。



[第一部]
●中村監督から見た3人のアニメーター

・細居さんは、うまさと物量両方備っているタイプ。
 お願いしたら、3倍返してくれる。若月先生の回るシーン(4話)も、そんなシーン。
・小木曽さんは、絵のリアリティがよい。膝裏の作画など、少ない情報量でやらせると敵わない。
 小木曽さんは、繊細(な作画)。細居さんは、大胆。
・菊池さんは、華やか。描く線も濃く深い。用紙破れるかと思うほど。


●はじまりに関して

中村監督>
・はじめから丁寧な作画のアニメにしようとしていた。
・はじめからこの3人で原画をやりたいと思って、前々から短い作品ならやりたいと思っていた。
・思ったより(スケジュールが)タイトになった。
 3話までは力を入れられた。
・3週間で1回締め切りで3話分を納品。

菊池さん>
・色々な部署の人から騙されたとの声があった(笑)。映画(『ねらわれた学園』)の後の息抜きと言われていたのに。

中村監督>
・レイアウトの難易度だったら、『ねらわれた学園』より難しい。


●OPに関して 

なぜ蟹なのか?(小黒さんからの質問)
中村監督>
・はじめレコード会社からあがってきたのは、エビの歌だった。
 エビが何らかの嫌疑(?)に引っかかって、”蟹ってどうですか?”と言ったら、次に上がってきたものが蟹になっていた(笑)。
・蟹の実写は、楽天で琉球蟹を買って撮った(←カネマツさん? 監督ではない)。撮影終わったら、川に帰した。
(後で調べたら、ED中のOPクレジットに”スペシャルサンクス リュウキュウサワガニ”との記載有り)

OPのデッサン像(○ョブズ似の像)について(小木曽さん作画担当)
小木曽さん>
・アニメの絵を描くよりデッサンの方が楽。美大でやっていた。細居さんと同じ大学で同学年だった。
・コンテのときからデッサン像だった。

中村監督>
・その人を出したいと思っていた。


●キャラのムチムチ感に関して(小黒さんからの質問)

中村監督>
・結果的にそうなった。
・原作はそうでもない。
・もっと頭身低く、かわいく的なイメージをプロデューサーサイドから言われた。
・細居さんが理解してそうだったので任せた。
 上がってきたものの反応もよかった。

細居さん>
・はじめは頭身高くスラッとしていた。
・頭身低く、太もも太く、かわいらしく的なオーダーがあった。
・フェチ系の写真集をまた買って参考にした(笑)。
 (前作『ねらわれた学園』でそういう系統の写真集を買われて参考にされてます)
・かわいさというは、ぷにぷにとか。

小木曽さん>
・自分は男性なので、ナチュラルにそういう好みがあるので自然体でやった。
・そういう本(フェチ系の写真集)を見てたら、卑猥になっていたのでは?
・健康的な高校生の感じにしようと思った。
 でも周りの反応は違った。
・筋肉の動きなどにこだわった。
・コンテ通りにやった。

菊池さん>
・細居さんお勧めのフェチ本が増えた(笑)。
・はじめ、監督にスカートをもっと短くと言われたが、後半は短すぎに(笑)。


●芝居のネチっこさに関して(小黒さんからの質問)

小木曽さん>
・4人とも熱いネチっこい絵を描くので、あっさりとしたものにすると言われたのにそうはならなかった。

中村監督>
・『ねらわれた学園』よりリアリティあるものに。
 オーバーアクションとかはしない。
・原画協力というクレジットの場合、自分はレイアウトとラフ原画を描いている。
・打合せは必ず4人同席。
・1人の人が全部やっている話数はない。

菊池さん>
・原画枚数多く繊細なので、描いている人でないとわからない、理解できない。描いた人しかわからない。
 二原(第二原画:ラフ原画のクリーンアップ)に撒けない(クレジットに二原が無しの回は少ないですが)。

中村監督>
・席は4人で四角い感じに座っていた。
・話しながら、絵を描いている感じ。
・1回来ると丸2日掛かる。

小木曽さん>
・合宿みたいな感じだった。


[第二部]
●ブレーレイ全話を観ながらコメンタリー
(※照明が落ちていたので、あまりメモ取れず)

中村監督>
・繋がった時の流れは意識していた(全話ストレート再生が出来る)。
・小木曽さんの膝裏の作画を無しで細居さんが修正(作監修正)したが、自分も良いと思ったので有りになった。
・アフレコ録りは、1-6話と7-12話の2回だった。
 2回目は声優さんも慣れた感じに。
 奏香(カナカ)は、慣れない感じの方がよかった(菊池さん談)。
・菊池さんは、自分で動いてみて作画の参考にする(本人談)。
・弟(颯太)の部屋は、3点パースで魚眼(レンズで捉えた感じ)になってる。
 コンテに5時間くらい掛かった。
・7話の彩生(サキ)と颯太がベッドの上でゲームするシーンは、自分がラフ原で細居さんが原画。
・『あいうら』は特効(CG等の特殊効果)ゼロの作品。
・基本パンフォーカス(セル部分?)。手などが前に来てもぼかさない。
・自分と細居さんだと、大きく大きくという感じになる。
 自分と小木曽さんだと、自分の雑な部分も繊細になる。
・最終話のフルコーラスはシナリオからそうしてあった。
・最終話の風鈴は、自分の原画。
・話数表記(のカット)は、作画・レイアウトは細居さん。背景はデザイナーさんにお任せ(普段はエディトリアルデザイン[印刷物のデザイン]をされている方)。
・主要キャラの声優さんの演技は、女の子のナチュラルさが狙い。
 リアリティを拾っていく。生っぽさを狙う。
・杉田さん(杉田智和さん)と田村(田村ゆかり)さんは、皆が聞きたいような声で。
 2人は声をつくってきたものを1回でOKにした。


●参加者とのQ&A

第一部終了後のQ&A
Q:作画とポストプロダクション(セルと背景制作から後の行程作業かな?)の関係について
A:
中村監督>
・独特の背景なので、どこで切るか気を使いながらやった。
・背景を見せるカットは、はじめに背景を描いてもらってレイアウト(←背景先行)。
・細居さんの分は、背景先行多かった。
・風景みたいなのは背景先行。
・屋内等はアニメーター先行。
・写真レイアウト(写真をレイアウトの参考として使う)は、某作品(『○らわれた学園』)の分を使った。
 つい似てしまった(笑)。(細居さん談)

Q:楽しかったカットや印象に残ったことは?
A:
小木曽さん>
・奏香は声優さんそのまんまという感じ。
 彼女のように描けばいいんだと。彼女が動いているのを見てイメージが固まった。
・夢の中で奏香が謎のセーラー服を着て大男をやっつけるシーン(5話)は、抑え目にしなくてよくてよかった(『あいうら』では抑えた演技の作画を求められていた)。

細居さん>
・皆のを見てもっとがんばろうという感じになるのがよかった。
・若月先生は、田村ゆかりさん(若月先生のCV)のライブ映像を観てイメージを掴んでいった。


第二部終了後のQ&A
Q:音楽が『ねらわれた学園』と同じ村井秀清さんになった経緯
A:
中村監督>
・『魍魎の匣』から一緒。
・ジャズっぽい感じでのオーダーだったので、生音で収録してもらった。

Q:心残りは何かありますか?
A:
菊池さん>
・あると言ったら、たくさんある。
・もっと繊細にやりたかった。
・自分にとってプラスにもなり、課題も見えた。

小木曽さん>
・あまり引きずらないように。後悔すると引きずる性格なので。
 やり切ったと思うように。

細居さん>
・自分は、すぐ忘れる性格なので(笑)。
・ラフを絵コンテからやりたかった。一原、二原全てやりたかった。

中村監督>
・もっとキャラを出したかった。

Q:アフレコ時の印象について
A:
中村監督>
・1話で1~1.5時間掛かった。
・自分たちはグロッキー、声優さんたちは若いので元気だった。
・アドリブはなかった。

Q:監督はマッドハウスに制作進行で入ったようなのに、どこで原画の修行をされたのか?
A:
中村監督>
・仕事している中で自然と描くように。
・マッドハウスが特殊。
 川尻(川尻善昭)さんがモデル。川尻さんは全カットをラフ原、レイアウトする人。マッドではあるべき姿になっていた。
・とりあえず描き、作監さんに直されたりして身に付けていった。

細居さん>
・監督の発想は面白い。動きの付け方がアニメーターと違う。

小木曽さん>
・(中村)監督は自分で描き起こさないから(ラフ原画→原画)、大変さわからない。
 でも大変さを考えてやると、固い絵、つまらないものになってしまう。

Q:5分の尺について
A:
中村監督>
・5分ならでは、自分なりにこだわった。
・原作読んで、5分は合わないと思った。
・5分くらいのショートアニメで有名な作品だと大地丙太郎監督の『すごいよ!!マサルさん』があり、ハイテンションなもの。
・超ゆっくりした5分にしようと思った。
・2期やるなら10分枠で。
 長い間は長く。長回しも。
・この3方(細居さん、小木曽さん、菊池さん)無しには出来ない。

Q:男性キャラについて
A:
・颯太は、菊池さん担当。

Q:オフゼリフが多いことについて(小黒さんからの質問)
A:
中村監督>
・ゆっくりさせるため。
・カットの数減らして、ゆっくりした感じに。
・放置されているカメラに映っている感じも(狙った)。

Q:ブルーレイでの修正の基準
A:
中村監督>
・うっかり系をまず直す。
・動画に出すのがギリギリになったりで、今はこれでと出し、最終的に直すと決めていたもの。
 11話で彩生が濡れた靴下を脱ぐシーンも。
・直すシーンは少なかった。

Q:地面のBook(キャラや背景の前に来る背景素材)などの使い方が似ているが、新海誠監督を意識しているか?
A:
中村監督>
・地面のBookは昔からあるように思う。

小木曽さん>
・自分も特別なことと思わない。

中村監督>
・引きのショットだと劇場のスクリーン1Fからの視線。
 劇場のスクリーンの断ち切りが見える感じ。
・演出のオーソドックスなところとして、人の目の視点だとおかしくなる(人の視点だと高すぎる)。
・(キャラ等への)カメラの距離については、望遠(レンズで)の絵をつくらないようにした。
 縦パース付けないと遠くから撮っている感じになる。
・新海さんは、現実にない色などを使ったり、意味や気持ちを絵に込めるのが(自分と)共通しているように思う。

Q:作画について(←質問うろ覚えです)
A:
小木曽さん>
・コンテにパースが引いてある。
・パース定規を使って勉強してやってみようと思った。
 1日掛かったりと挑戦だった。
・パース守りすぎても固くなる。

細居さん>
・ComicStudioのパース定規を使用した。
・(パースを理解しあえて外すことを)わかった上で気持ちいい場所に置く。

菊池さん>
・パース定規使わず手描きで。


●最後に一言

細居さん>
・つくっていると観てくれている人の顔がわからない。
・こうして多くの人の顔がみれて反応をもらえることは、支えになる。

小木曽さん>
・こういう人前で話すことははじめてだった。緊張したが、いい経験だった。

・菊池さん>
・中村監督と小木曽さんにはじめて会ったのも阿佐ヶ谷で、この場所でたくさんの人に来てもらいよかった。

中村監督>
・(『あいうら』は)もっと長くやりたい。
・イベントパート2やりたい。(←満場の拍手)
・こんなに作品が愛されるのはうれしい。


●プレゼント色紙
※会場でじゃんけんに勝った人にプレゼントされました。
 C84の『あいうら』スタッフ本も。

・細居さん:奏香、彩生、歩子(ゆっこん)、芽依、若月先生
・小木曽さん:歩子
・菊池さん:奏香と颯太
・中村監督:蟹
色紙

(↑いい角度からは撮れませんでしたが)



イベントに参加して

3人のアニメーターさんが監督の難しかった注文に文句を言いながらも(細居さんは比較的少ない印象でしたが)、悪い関係の雰囲気が全くなかったのが印象的でした。
中村監督が演出される映像作品は、丁寧で美しく緻密で破綻の無いイメージがするので、気持ち的には熱いけど完璧主義的なクールな性格の人かなと勝手に想像していましたが、人のよさそうな人当たりがよい印象の人でした。
そんな4人の関係がかなりよさそうに思えました。
作品の内容と作品全編を会場で視聴したことも要因にあると思いますが、楽しく幸せな雰囲気もしたイベントでした。

『あいうら』のOPに出てくる蟹に監督の特別な意図が無かったのが意外でした。
しかし、レコード会社側は、なぜエビの歌にしようと思い、なぜエビがNGになったのでしょうか? どうでもいい感じですが、謎は残りました(笑)。

キャラの身体のデザインに関して、プロデューサー側からのオーダーで結果的にそうなったという話も少し意外でした(個人的には、プロデューサー側GJです)。
自分は、監督がはじめから意図的にリアリティ感じさせる肉感的なデザインを目指したのかなと想像してました。『ねらわれた学園』では、繊細だけどやり過ぎなくらいの官能的な作画にもなっていたので(顔の表情による表現が多めでしたが)、その延長上で新たな試みをされていたのでは?と憶測してました。
そして、作品に応じて様々なキャラを作画できるアニメーターさんに改めてすごいなと思いました。

監督はアニメーター経験が無さそうなのに、原画等描くことが少し不思議でした。
その理由として、マッドハウスで全カットのラフ原&レイアウトをする川尻監督があるべき姿になっていたからという話にも驚きました。川尻監督すごい仕事量と質です。
マッドハウスの自社制作作品分の多くが質高いのは、そういった理想の姿が共有されていることが大きな理由の一つになっていそうです。

パースやレイアウトの専門的な話も多かったですが、自分は詳しくないし、その大変さをきちんとわかりませんでした。残念。

ところで、『あいうら』を観たとき、『けいおん!』シリーズの山田尚子監督作品の映像やキャラを個人的に想起させられました。
例えば、キャラの現実っぽい生っぽい身体デザイン(特に脚。『あいうら』の方が色気が強いですが)、小さめに見える手、萌えキャラ系の顔のデザイン、カメラに対する媚びを感じさせないキャラの演技(若月先生はちょっと違うかも(笑))、丁寧な芝居、キャラを少し離れた距離から観察しているようなカメラワーク、低めのカメラ位置が多め(『あいうら』の方がより低めで数多いですが)、テンポ(部分的にですが)などに共通点を感じました。
山田監督も脚フェチ(?)ですし(笑)。

キャラのデザインの共通性については、プロデュサー側のオーダーから出来上がったという話だったので、プロデュサー側の好みによって近くなったと思われます。
その他の演出に関しては、中村監督の他作品でも感じる特徴に思えます(印象的にですが)。そうした面もプロデュサー側のオーダーがあったかもしれませんが。
また同じ萌え四コマ漫画が原作の日常系的作品なので、意識せずに似てきてしまう部分はありそうです。
イベントでそういった話は出なかったですが、その辺りの共通性についても、少し聞きたかった気がします。

今回参加して、3人の作監クラスの達人アニメーター+監督ががっつり組んだ作品だったからこそ、ここまで表現ができたのだろうなと思えました。
原作ストックはあるようですし、『あいうら』2期実現を願ってます。
イベントも2回目あるのなら、もう少し作画等の知識も理解して、また参加したいです。まだまだ作画やそれ以外(演出・背景・撮影等)も秘密(?)があると思いますし。
また、中村監督が次回作でどんな映像を見せてくれるかも楽しみです。


※参照
あいうら蟹ナイト備忘録 – まっつねのアニメとか作画とか

Togetter – 「あいうら 蟹ナイト ~作画を語ろう!」(第75回アニメスタイルイベント) ツイートまとめ
 (自分でまとめました)


※2013/9/12:イベント感想部分の文章一部修正・加筆

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この記事に対して問題等ありましたら、こちらのページまで。