アニメーション監督術 第9回 大地丙太郎監督:レポート

2010年05月19日(by キョウ) コメント0
5月15日(土)に[アート・アニメーションのちいさな学校]のアニメーション監督術の9回目を受講しました。
今回は、大地丙太郎監督。
急遽、監督の都合が一番良い今回の日に決まりました。はじめ余裕をもって6月の講義を予定していたそうですが、先になると監督の状況が変わり、さらに先へ延びてしまう可能性が高いためとの事。
間(ま)にこだわった演出、漫画原作もののアニメ化の場合の接し方、4月末に放送されネットでも話題になった「迷い猫オーバーラン!」4話の独特の制作方法などを話してもらいました。
急遽決まったにも関わらず、会場はほぼ満員でした(40人位か)。

【注意】
  • 自分が取れたメモと記憶をもとにまとめています。
  • メモがうまく取れず、記憶から補足し、だいたいの要点でまとめている箇所もあります。
  • そのため監督や発言した人の本意とは少し外れてしまった点もあるかもしれません。悪しからず。
  • 話の内容の全てをフォローしていない&できていません。

 ※記憶違い・間違い等があれば、コメントでもください。


●学生時代のアニメ制作

・監督生活15年、演出19年、アニメの仕事を23歳からはじめて30年になった。
・中学からアニメの表現形式に興味をもった。
・「おそ松くん」(赤塚不二夫)の漫画が好きで漫画を描いていた。
・アニメをつくった1番はじめは、高等専門学校2年生の時。
 つくり方わからず、手探りではじめた。8mm。
 原画は画用紙に描いた。タイムシートは無しで勘で。
 出来が良かったのでコンテストに出した。しかしフィルムが帰ってこなかった(紛失)。自宅に人がお詫びに来た。
 原画は残っていて、2度目の撮影をやってみたけど、1度目のテンションが出なかった。
・翌年2作目制作:人形アニメ
 学校の仲間と。誰も知識無し。
 ストーリーよかった。子ども向け。童話っぽい。
 後半部分は面倒でコマ撮りせず、カメラ廻しながら人形を動かして撮った。
・3作目は、高等専門学校5年生(20歳くらい)のとき
 推薦で一人だけ大学進学決まり、暇な人が自分だけだった。一人で8mmで制作。
 大地監督曰く傑作。スクリーンで上映「ギタをもってる渡り鳥」。
 (少しゆるめのデザインのキャラが銃を打ち合うショート作品。会場内からクスクスと笑い声が起こる)


●演出の極意(?):間(ま)に関して

※はじめにNHKの落語に関するTV番組の一部をスクリーンで観る。
 三遊亭小遊三、桂米助出演。
(調べたら、「<NHK趣味悠々> 落語をもっとたのしもう」の第6回「落語は”間”が命」だと思われます。参照:NHKエンタープライズの販売ページ
以下は、三遊亭小遊三と桂米助の話のメモ。
――――――――――――――――――――
・「間が命」はどこの世界にもある。
・その人それぞれの独特の間がある。
・お客さんに息をちょっと吸ってもらって、そこでどっと笑わせる。
・その間は一人一人研究する事。
――――――――――――――――――――

・同じつまらないシナリオでも、呼吸の取り方、間で笑わせられる。
・泣かせるのも同じ。

・見るだけでなく、出力し続けることが大事。習うより慣れろ。
・よく一緒に仕事をするアニメーターさん(ユマさん?)の言葉。よく自分も使わせてもらう。
→「2枚描いたら動く、3枚描いたら血が通う」
・面白いストーリーもつくりたいが、気持ちのいいものをつくりたい。
・お笑いの人の話を聴くのが好きでよくやっている。志村けんさんetc。でも志村さんの笑いが特に好きというわけでない。
 話を聴いて、自分もやっている、これはいいなと思う。


●「ギャグマンガ日和」(2005年〜)、「くるねこ」(2009年〜)に関して

※「ギャグマンガ日和」「くるねこ」をスクリーンで上映

「ギャグマンガ日和」
・間を入れない。セリフ重なるくらい速い。
・何が起こっているかわからない感じで。気になって、また見てもらう。再放送もたくさんやると聞いていたので。

「くるねこ」
・隙間をたくさんつくろうと思った。猫がひなたぼっこしているような感じ。

・この作品はどの間でやろうかと決める。
・ショート作品は、やり逃げできる(好きなことができるの意)。楽しい。
・EDは重要。大事にしている。(作品の)余韻を楽しむ感じ。
・「ギャグマンガ日和」のEDは、本編が下ねたや殺伐とした感じがあるので、ピクニックに行くような曲にした。
・「くるねこ」は句読点アニメ。点があって点があって、丸。丸がED部分。


●絵コンテと演出

※それぞれの作品の絵コンテをスクリーンで見せてもらう。
・絵コンテあまり残しておかない。

「おぼっちゃまくん」
・制作デスクの時代に描いた。
・会社にバレるとまずいので名前を変えた(”中野線路”名義)。
・かなり丁寧に描き込まれ、指示も丁寧に入っているきれいなコンテ。

「十兵衛ちゃん」(1999)
・上記の「おぼっちゃまくん」と比べるとかなり荒い絵のコンテ(ぱっと見だと判別が難しいコマも)。
 信頼できるアニメーターさんに頼めることがわかっていたので。
 自分が描く以上のものがあがってくるのがわかっていた。
・ここはこの表情にしてほしい等のときは、そのコマのその箇所だけはキチンと描く。
・「十兵衛ちゃん」は、自分が観てきた人の作品・影響受けた作品を自分なりにアレンジした集大成。
・ギャグ部分は「すごいよ!!マサルさん」(1998)の要素を、あとは当時TV放送し人気だった「踊る大捜査線」の要素を入れたいと思った。
・音楽は「踊る大捜査線」みたいにと注文。1フレーズだけでワクワクするものにと注文。

「フルーツバスケット」(2001)
(絵コンテのスクリーン上映なかったかも。うろ覚え)
・原作(漫画)のキャラのポーズ等をそのままやろうと思っていた。
・林明美さん(キャラクターデザイン・総作画監督)が描けば、大丈夫と思っていた。
・原作のもつ透明感を出せばと。

「僕等がいた」(2006)
・「十兵衛ちゃん」程ではないが、荒い絵のコンテ。
・原作(漫画)をまんまやる。
・原作のコマをそのまま絵に。コマの外の世界は描かない。カット割も表情もそのまま。
・原作で目を描いてない顔もそれが表情なので、そのままに。
 目を描かないのは、アニメーターさんには抵抗あったよう。


●漫画原作もののアニメ化に関して等の話

・自分のわからないものは原作どおりにする。原作が完成されているものだし、そのままに。
 なんで自分にこの作品の話がくる?ということもある。
・その作品で演出ワード、演出モードを変える。


●プレスコ(映像(絵)より先にセリフ等を先に収録する手法)に関して

・「すごいよ!!マサルさん」(1998)の反省から取り入れることに。間がうまくいかなかった。
・「ギャグマンガ日和」のプレスコ
 声優さんのしゃべったセリフをカットすること多い。
 今期最終話は、15分原作漫画読みで、4分にカットした。面白いものになっている。
・「くるねこ」のプレスコ
 小林聡美さんの声は、はじめ反対していた。犬っぽいイメージだったので。
 はじまってみると、小林さん最高だった(笑)。全ての声をやってもらい、リテイクもなし。
・「ギャグマンガ日和」と「くるねこ」の(両極端なものを)両方やっていたので、少しわからなくなったりした(笑)。


●「迷い猫オーバーラン!」4話の監督に関して
(毎回、監督が変わるTV作品で4話はネットで話題になった。)

・最近、ずっとプレスコだったので、どうしようかと悩んだ。
・絵コンテのセリフを全て自分で声に出して読んでレコーダーで録音し、30分(1話分)のビデオコンテをつくった。
※そのビデオコンテをスクリーンで上映。
 撮影された絵コンテの各絵に大地監督が演じたキャラの声が時間どおり(大地監督の間どおり)に入っているもの。女キャラの声も。会場で笑いも。テンポはほぼTV完成版と同じ印象。
・自分で読んだセリフで、タイムシート組んだ。
・自分の間でできてよい。
・声優さんにもそのビデオコンテを観せて、その間でやってもらった。
・アニメーターさんの作打ち(作画打ち合わせ)もそれを観せて説明。
・編集時のカッティングもほぼなし。
・こんな方法やる人いないかな?と思っていた。
・やりたいと悩むくらいなら、とりあえずやってみた方がよい。


最後に講義前半でスクリーン上映した「落語は”間”が命」を再度観て終了。


●受講生とのQ&A

Q:映像をつくられるようになって、間が良くなったと思えるようになったのはどんなときからか?
A:赤塚不二夫さんが好きだったので、その間の影響が大きい。
 赤塚さんはチャップリンも好き。
 自分にとって中学生時代までに受けた影響がベース、それ以降はそんなに影響受けなかった。
 場数やれば、気持ちいいものできる。磨かれていく。

Q:影響受けた作家や映像作品。観た方がよい作品。
A:ギャグでは、赤塚不二夫さん。
 シリアスは、TV時代劇の「忍者狩り」。(参照:AmazonのDVD商品ページ
 観た方がよい作品は、チャップリンの作品。
 自分の興味ある分野でそういうものがあれば、昔の名作は観た方がいい。

Q:原作もので原作どおりにしようとしたときの気持ちは?
A:すごい不安だった。
 一緒にやる人に相談して、一緒に飛ぶ事にした。
 まんまやっても、映像なので一緒になるはずない。
 声、音、音楽、動きもあるので、更に面白くなるはず。
 (そういう意味で)挑戦している。
 アニメ観た人が原作読みたくなるように。

Q:「今、そこにいる僕」(1999)について、どう思っているか?
A:あれはすごいと思った(笑)。
 ギャグばかりだと枯れるので、ギャグ禁止にしてやることにした。本当の戦争は痛いんだぞと。
 戦いの話は、倉田英之さん(シリーズ構成・脚本)に任せ、登場人物の戸惑い等は自分で。相談してやった。
 息が詰まって早く終わりたかった。皆、心を痛め、胃を痛めていた。
 「おじゃる丸」をやるとほっとしていた(平行して制作)。
 日本よりアメリカで評価が高かった。
 今はできそうもないので、そのときつくってよかった。傑作。

Q:何故、アニメを選んだのか?
A:たまたまアニメに進んだ。
 中学、高校時は、役者になりたかった。
 大学時は、舞台写真家になりたかった。
 大学のとき、アニメの撮影を教授から声を掛けられ、やることになった。そして、その仕事に。
 アニメは自分の得意技。
 実写もやってみたい。ものすごくやりたい。

Q:原作もの作品で自分と他の人(他の監督)との違いは?
A:自分中心(主観という意味かな)で言うと、キャストと音楽(確か音も)の使い方が違う。

Q:ダム建設のアニメ、手話のアニメ等、多様につくられる理由は?
A:ダムは依頼で。宮ヶ瀬ダムの資料室で観られる。
 (追記[5/21夜]:「宮ヶ瀬ダムマン」という作品かな? 参照:WEBアニメスタイル EVENT 第21回 監督10周年記念 大地丙太郎、語りまくりっ!)。
 経験値を積むのがよい。
 宮崎県の灌漑事業のアニメ制作(確か)で、行政の人に絵コンテ等でプレゼンしたとき、反応なかった。こういう経験もそういうケースとして残るし使える。
 プラスになるとプラス思考。


講義での話は以上です。

大地監督の作品は結構観ていたし、「フルーツバスケット」「十兵衛ちゃん」はかなり好きな作品だったので、懇親会にも参加しました。場所は、会場の上のライブラリー。
大地監督とは離れた場所にいて、監督も途中で帰られたので話を聴くことができませんでした。ちょっと残念。
でも参加者の人たち等と話したり色々な話も聞けたりできよかったです(自分は話すの得意な方でないですが)。


今回講義を受けて
大地監督作品の絶妙な間やテンポのシーンに感心させらることが多かったのですが、やはりかなりこだわって大事にされていたのがわかりました。
呼吸の取り方とか間の演出は難しそうだけど、面白そうに思いました。またそれをもう少し意識して様々な作品を観てみたいとも思いました。

漫画原作ものの話において、監督がわからない(深く理解出来ない)原作で、完成されていると思われるものは原作そのままにアニメ化しているという話は意外でした(特に少女漫画原作かな?)。理解している感じでアニメがつくられていた印象があったので。
その方法が、結果としてかなり優れた効果をあげているのも興味深かったです。
原作自体は深く理解出来ていなくても、その素材(原作)の味を見極め、素材感をきっちり残しうまくすくいあげ、素晴らしい作品に仕上げられるのも大地監督の才能と思いました(原作との相性が合う・合わないはあるでしょうが)。

大地監督作品には、過去に個人的に幾度も笑わせられたり泣かせられたりした作品が結構ありました。テンポよいギャグで、泣けるせつないシリアス系のシーンで。
「十兵衛ちゃん」は、その両方がある作品で、実は、それまでTVアニメだとSFものやメカが出てくるもの中心にしか観てこななかった自分が、遅まきながら興味ないアニメのジャンルでもとりあえず観てみるきっかけになった1作品でした。
その話も聴けてよかったです。

「迷い猫オーバーラン!」4話の一人プレスコ・ビデオコンテ(?)を使用した制作方法も興味深かったです。
今後、似たような方法で制作する人も出てくるかも。

監督のTV出演した姿を見た事はありましたが、実物もいい声で笑顔が多く明るく、魅力がありそうな人でした。
今回の講義があるので、Webラジオの「大地丙太郎のおととい来やがれ!」の第11回を聴いたら、昨年夏から続いていたスランプを抜けたとの事。
今後の作品に期待しています。


※追記:レポート紹介
アート・アニメーションのちいさな学校だより : 第9回(2010年度第2回)監督術:大地丙太郎 コンテ演出
(↑監督が描かれた絵コンテも載っていました)
Togetter – まとめ「アニメーション監督術 大地丙太郎監督の会」


次回講義は、5/29(土) 杉井ギサブロー監督の2回目です。

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