木下惠介監督生誕100年を記念してつくられた原恵一監督の初実写映画『はじまりのみち』(6/1公開)試写会後、原恵一監督、細田守監督、樋口真嗣監督によるシンポジウムがありました。
当日はニコニコ生放送でもシンポジウムの生配信がありました。自分は配信あることを知りませんでした。プレミアム会員だと5/19まで視聴可能のようです。
以下、そのシンポジウムで自分が興味を感じた点のレポートです。
原監督の話を中心にメモを取ったため、他の方の話は少なめです。
『はじまりのみち』のネタバレ少しあります。少しですが、ネタバレしたくない方は読まないでください。
【注意】
- 自分が取れた部分的なメモをもとに+記憶で補足してまとめています。そのようなまとめなので、実際の発言そのままではない箇所が結構あると思われます。発言者の本意と少し違ってしまっている箇所もあるかもしれません。悪しからず。
- 話の内容を部分的にしかフォローできていません。
- ( )内は主に自分による補足説明です。
※記憶違い・間違い等があれば、コメントや連絡でもください。
※東京工科大学メディア学部教授 濱野保樹さんがコーディネーターとして進行(東京大学新領域創成科学研究科教授でもあり、『アニメーション監督 原恵一』の編者もされています)。
●『はじまりのみち』観終わっての感想
※両監督とも前に試写を観られてます。
細田監督:
・原監督のファンでずっと作品観ていた。
・アニメとは違うため、実写だと原さんのテイストが無くなるのではと少し不安もあったが、原監督スピリットあふれている作品だった。
樋口監督:
・撮影の現場に行って安心して帰った。
監督が愛されていて、スタッフも撮りたいものがわかっていたので。
●実写を撮りたいという思いはあったのか?
原監督:
・いつかはと思っていたわけではない。
・木下(木下惠介)監督生誕100年記念ということで特別だったので、断われなかった。やるしかなかった。今まで木下監督や監督の作品について薦めたりよく話していたので。
自信は無かった。
・カット割り一つにしても、現場で決めるんだと戸惑いばかりだった。そのことを撮影前日に知った。コンテは描かなかった。
・単純に時間が無く、絵コンテ描けなかった。一部は必要があり描いた(雨の中、リヤカーを引くシーン)。
・立命館大学の特別授業で生徒と一緒に実写作品撮ったが、向いてないと思った。
・1回役者さんがリハーサルし、その後、カット割りどうしましょうか?となり、すごい衝撃だった(←アニメ制作とはかなり違うため)。
カメラマンの池内さんがカット割りを提案してくれて、決めていった。
●アニメと実写の違いに関して
細田監督:
・アニメつくる考える道筋と実写では全然違う。
原監督:
・(今回の映画づくりは)自分もそこまでコントロール出来ていなかった。
・編集作業はじまったらアニメと同じ作業。
・役者の生理が入るので(間や喋るスピード等で)、アニメとはテンポが違ってくるんだなと思った。
●はじめて実写の映画をつくったことに関して
原監督:
・アニメと実写で違うということは感じた。
・現場でどういう判断したらいいか・考えたらいいか最後までわからなかった。周りのスタッフはわかっていたが。
・調子に乗って、また実写をやりたいという感じにはならない。
・お客さんがどういう層になるか考えていなかった。
試写会などで今までの自分の作品層と違う人が来ている、年齢層が高いとわかってきた。
・話があってからほぼ1年で完成。
・(挫折と再生という映画の内容に関して)調子いいときばかりでは無い、挫折もありそれを乗り越えないといけない。
若い人にもそういうことが伝われば。
●木下監督作品に関して
原監督:
・なぜ評価されないのかわからない。
観ないと損。観れば観てなかったことを後悔する。
・やさしい映画も好きだが、残酷に人間を描くものもある。
その幅の広さが良い。
・新しいことに挑戦し、過激なのもよい。結構ロック。
●『はじまりのみち』の最後の方で木下監督作品のシーンをたくさん入れたことに関して
原監督:
・肖像権等の確認で松竹側は大変だった。
・各シーンを短く切るのは、好きなため、しんどい作業だった(←うろ覚え)。
・迷ったら過激な方を選択するようにしている。
過激なことは怖い。それを話すときとか。”えっ”という反応をされる。
木下監督作品の影響はある。
・『大人帝国』(『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ! オトナ帝国の逆襲』)でこれはお客に受けないだろうと思い、それが受けたのが、その後の作品づくりに影響してる。
●モノをつくる人の挫折と再生に関して
樋口監督:
・挫折について自分は意識していなかった。自分の仕事を俯瞰して見れない。本能で突き進むので。
・『はじまりのみち』を観て、映画や人にモノを伝えるのはこういうことなのかと気付かされた。
細田監督:
・『はじまりのみち』は自分が体験したこととそっくりだなと思った。当時の自分を見ているよう。
ある映画をつくっているときに母が倒れ、その映画も諸事情で制作中止になった。制作中止によりこの業界で生きていけないと思う状況になった。
また叔父に”一人っ子だし母の介護はお前がやれ”と言われたこともあり、実家に帰って田舎で仕事をやろうかと思っていた。
そのことを叔父に話したら、母の介護をやれと言っていたのに”その歳で田舎で仕事無い。今までの仕事や仕事の人間関係を捨てるのは厳しい”と言われたことがあった。
原監督:
・映画監督の話なので自身と重ねるところはあった。
●最後のシーンに関して
原監督:
・木下監督の母・たま役の田中裕子さんの話から、コンテを描いて最後にシーンを追加した。
リヤカーに乗った田中さんの撮影では演技が大変だったので、”リヤカーでの移動は大変だったのでは?”と言ったら、”たまさんはいつも(病気で寝ていて)天井を見つめているだけなので、たまには空を見上げられていいのでは?”と話された。
自分はたまさんの心情になれてなかった。
●次回作に関して
原監督:
・またアニメをつくる準備をはじめている。
●実写のいいところに関して
原監督:
・実写ではカメラマンの人がいい絵を撮ってくれる。
・今はチマチマ、コンテで絵で描いている。
●最後に
原監督:
・この歳でこんなにたくさんの経験、プレッシャーを感じるとは思ってなかった。やれてよかった。
・出来た作品も似た作品無いと思い、一種過激な作品になったと思った。
シンポジウムを聞いて
実写映画をよく観られ詳しそうな原監督がアニメ制作との違いから大きく戸惑い、(撮影)現場ではどう判断し・考えたらいいか最後までわからなかったという話が印象的でした(実写の制作自体については、詳しくなかったのかもしれません)。
原監督は実写映画好きで、作品も邦画の映像的だったり、話の内容・人物・ディテール描写に実写的なリアリティがあると思うので(最近の作品『カラフル』や『河童のクゥと夏休み』では特に)、今回の実写映画制作以降は実写の方に重心を置く可能性も高いかなと勝手に思っていました。しかし、その反対で積極的にまた実写をやりたいと思ってない感じだったのが、個人的に意外でした。
今回の『はじまりのみち』一作だけでは、実写作品での実力が個人的に判断しずらいですが、機会があったら再び実写映画をつくってみて欲しいと思いました。
また次回作として、既にアニメ制作に取り掛かれているようで期待しています。
木下惠介監督作品は有名な作品を数本しか観たことなかったのですが(個人的に『二十四の瞳』は静かな反戦映画の傑作だと思ってます)、過激な作品等いろいろなテイストの作品があるとの話だったので機会があれば観てみようと思いました。
以下、『はじまりのみち』の個人的な感想を少し。
・原監督作品にしては、話やエピソードとその演出がベタ過ぎに感じられるシーンがありました。BGMも感動させようという感じが強いものが多めに思えました。
話に関しては実話をベースにしているので、実話どおりで仕方ない部分があるのかもしれません。
・カット毎の繋がりが固い、ぶつ切りに感じられた部分があり、その流れがスムーズでないのが気になりました。
役者さんの演技の印象もあるのかもしれません。
・でも後になってじわっと心にくるよい作品でした。
母と子、家族間の情愛が、さり気なく描かれている部分は好印象でした。
上記のマイナス点は、再度観たら諸々印象変わるかもしれません。
・監督は”一種過激な作品になった”と話されていましたが、木下監督作品のシーンを数多く・長めに入れた部分のことでしょうか? それ以外は、どの部分が過激なのか残念ながら自分にはわかりませんでした。
ニコ生のプレミアム会員になれば、5/19までシンポジウムの配信を観られるので内容確認のため、会員になろうかなと少し思いましたが、そのためだけに会員になろうと思えず。
そんなこともあり、すみませんが、詳細で正確な話を知りたい方はニコ生で観られることをお勧めします。
※参照
・原恵一監督、細田守監督、樋口真嗣監督登壇!東京工科大学公開講座『はじまりのみち』試写会&シンポジウムレポート(『はじまりのみち』公式サイト)
・東京工科大学『はじまりのみち』試写会&シンポジウムレポ: 原恵一監督を応援するブログ(5/25追記)
・初実写監督作品「はじまりのみち」を撮り終えた原恵一監督にインタビュー – GIGAZINE(5/25追記)
・特集「はじまりのみち」原恵一監督インタビュー前編 アニメの経験を現場に持ち込むつもりはなかった | WEBアニメスタイル(6/1追記)
・特集「はじまりのみち」原恵一監督インタビュー後編 木下監督の勇気と過激さを知ってほしかった | WEBアニメスタイル(6/1追記)
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